『日常の中の非日常』

“冷やかしか?”
待ち合わせの時間になっても俺の携帯はメールの着信も電話がかかってくる気配も無かった。

“ま、そゆもんか。”

と半分諦め、半分諦め切れない気持ちでいた。

“若くて、巨乳・・・”

そんな相手が本当なら今頃俺の目の前にいるはずだった。

暦の上ではすでに秋だというのに刺すような暑さが大粒の汗を額に浮かび上がらせる。

“風俗にでも寄って帰るか。”

と歩き始めた時、それまで目だけで探し続けていた服装そのものを着た女の子とすれ違った。

女の子はさほど緊張をした素振りも無く、タバコに火をつけソファーに腰を下ろし俺にとっては興味のさほどない彼氏の話や、バイト先の話を繰り返している。

俺は適当に相槌を打ちながら手を伸ばせば届く場所にある膨らみの大きさに目を奪われ、アレを今から好きに揉みしだけるんだと思うと、自然と血液が下部に集まってくる。

風呂場からお湯が溜まった事を知らせる電子音と共に腰をあげ服を脱ぐジェスチャーで彼女を促す。

俺は服を脱ぐ仕草を見るのが好きだ。自分を守るものを一枚ずつ自ら剥ぎ、これから二人が行う行為を自分で認識させているような気持ちになる。

“これからセックスをする。”

そう頭に思い浮かべている女はエロく見える。

上着を脱いだ彼女の胸には期待したものがあった。黒い下着に持ち上げられるようにゆさゆさ揺れている。

十数分後、アレに指をうずめ、顔をうずめ、先端にむしゃぶりついている自分を思い浮かべていた。

湯船に浸かると彼女は19でヘルス嬢をやっていると語った。俺は風俗に入るきっかけを聞いてみたい衝動に狩られた。

風呂から上がった二人はまた他愛も無い会話を続けた。

彼女は19だと自ら語った。
高校を卒業すると共に“なんとなく”風俗の道へと足を踏み入れたそうだ。。。

“なんとなく”

興味をそがれる一言だ。

ホテルへ入って、すでに一時間は過ぎているだろうか、徐々に頭が冷静になってくる。
俺のいいのか悪いのか判りかねている癖だ。

“俺、何やってんだ?”

と、バスタオル一枚でテレビに目をやっている女を見ながら思ってしまう。

約束を取り次ぎ、会うまで・・・が楽しいのかも知れないな、この『遊び』も。

俺は金で女を買った。

女は今、俺の股間に顔を埋め、半分仕事のように口をすぼめ顔を前後に動かしている。

快感が腰を登り脊髄を走り、後頭部を溶かす。

けれど、心臓が冷たい。
視覚でも楽しませる為のものか、天井に張り付いた鏡にその光景が映されている。

鏡の中の俺を俺は醒めた目で見ている。

“何やってんだ?お前?”

頭の半分が快感に、もう半分は冷静なまま俺は彼女に覆いかぶさった。

彼女と交わりながら心の中で俺は笑っていた。
何が可笑しいのか自分でもよくわからない。

ただ、そうするのがセオリーだろう?というように、女の胸に顔を埋め先端に吸い付き半分硬くなったそれを舌で転がし、緩く噛む。

セックスはこういうもの。

という教科書どおりに動いている自分が可笑しかったのかも知れない。

数時間前まで他人だった男女。
女は足を開き、本名も知らない男のモノを咥え・・・体の奥深くにまで受け入れる。

刺激的で。

滑稽だ。

女の肌の感触・・・アレが擦れる摩擦によって俺は彼女の奥深くへと吐き出した。

薄いゴムに隔てられ、それらの熱さ、ぬめりがアレに直接返ってくる。
痺れにも似た感覚が収まると彼女の中からそれを抜き出す。

頭の半分を占めていた快楽が抜けきった事で俺の頭には“冷静”だけが残っていた。

やる事をやった男女は言葉数も減り、足早にホテルを出た。
エレベーターホールで紙切れを二枚彼女に手渡して。

もう二度と会う事も無いであろう女。町を歩いている二人は恋人同士に見えるだろうか?
でも、その実・・・。

そんな非日常的な空気が俺は好きだ。満たされない思いばかりが残ったとしても。

そして俺はまだ見ぬ女との満たされぬ出会いを求めてまたキーボードを叩いてしまうのだろう。

数日後、ゆいと約束を取り付けたサイトを覗くと彼女はまったく同じ文面・・・。

“今夜、○○で会える人を探しています・・・○くらいを希望します。”

今夜も彼女はあの時と同じような話をし、同じように男に奉仕し、演技をし、男を受け入れているのだろうか。

もう一度メールを送り、アポを取ろうしたら彼女はどういう反応を示すだろう。

同じ男は二度は。。。

前と同じように。。。

つまらない空想を膨らませる。

メールを送ろうかどうか迷っていると、ふとホテルでの会話が蘇った。

「なんとなくヘルスやる事になって~。」

・・・。

男を受入続ける理由もきっと。。。

“なんとなく”

そんな言葉が返ってくるだろうなと確信して、彼女のメッセージを見送った。

-完-

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