*禁忌*
-#2-
「頼むよ〜美晴。
何かとお世話になった方でさ〜。
・・・だから〜今夜の打ち上げでまたお会いして、お前のことを自慢てたら是非にって(笑)
・・・な、頼むよ〜。」
受話器の向こうからは、賑やかな音に負けじと声を張り上げる、酔っ払った夫の声がしていました。
もうすっかり○氏のことは忘れ、ため息にも笑みが混じる、絵に描いた様な幸せの中・・・夫の我が儘に付き合うことになった私は、服を着替えて帰りを待ちました。
暫くするとインターホンが鳴り、夜遅くに訪れる来訪者へ精一杯の作り笑顔を見せようと、私は玄関先に駆け寄りました。
「初めまして奥さん・・・こんな夜更けに突然お邪魔してしまい申し訳ありません・・・私はこう言う者です。
○○さんとは年齢が離れているものの、仕事を通じて公私ともに親しくさせていただいています・・・。」
堅苦しい挨拶をするなとでも話しているのでしょうか・・・名刺を差し出すその男に、笑いながら話しかけ部屋の奥に案内する夫の声はまったく聞こえませんでした。
空間が止まっている・・・
そう表現すればいいのかは判りませんが、夫に身体を揺すられながら呼ばれるまで、私の頭の中は空白になっていました。
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